「【アン、パティ、ミシェルからの影響】UNDERCOVERの2004AW「BUT BEAUTIFUL…」」という記事では、
- アン、パティ、ミシェル、3人の女性クリエイターからの影響
- 高橋氏のディレクション能力
- 女性的な感覚で作ったコンセプチュアルな服
この3つのキーワードをもとに、UNDERCOVERの2004AW「BUT BEAUTIFUL…」について書きました。
まだ読んでいない方は、ぜひ読んでみてください。
今回はUNDERCOVERの連作コレクション「BUT」期シリーズの2つ目のシーズン、2005SS「BUT BEAUTIFUL Ⅱ」について書きました。
UNDERCOVER 2005SS「BUT BEAUTIFULⅡ」
上の写真は僕が集めたBUT BEAUTIFUL Ⅱの服たち。
今回の記事では、4つのキーワードをもとに BUT BEAUTIFUL Ⅱについてご説明します。
BUT BEAUTIFUL Ⅱを知るためのキーワードは、つぎの4つです。
- ヤンシュバンクマイエル氏へのオマージュ
- 服が服を食べている服
- 物が朽ちていく様子
- 子供のような視点のファッションデザイン
それでは、ひとつずつ説明していきます。
高橋氏はBUT期のはじまりのシーズン 2004AW「BUT BEAUTIFUL…」では、
- アン・ヴァレリー・デュポン
- パティ・スミス
- ミシェル・ジャンク
この3人の女性アーティストから影響を受けて洋服をデザインしました。
ヤン・シュバンクマイエル氏へのオマージュ
つづく2005年春夏の「BUT BEAUTIFUL Ⅱ」では、ある1人の男性アーティストから影響を受けて洋服をデザインします。
それがチェコの鬼才シュルレアリストのヤン・シュヴァンクマイエルです。
このシーズンのタグには「hommage to Jan Švankmajer」と書かれているように、高橋さんは彼に対してオマージュを捧げる服を発表しました。
そもそもオマージュとは、どういう意味を持った言葉なのでしょうか?
オマージュhommage
オマージュは、リスペクト(尊敬)や敬意のことをさす。 尊敬するアーティスト、その作品に影響を受けて、それに似た、あるいはモチーフとして作品を発表するケースがファッションでもしばしば見受けられる。 オマージュ(hommage)という言葉自体はフランス語。
fashionpress[ファッションプレス]
つまりはオマージュとは、自分が尊敬するアーティストに対して、敬意を表し、そのアーティストに捧げるつもりで作品を作る行為です。
高橋さんは2005年春夏で、シュヴァンクマイエルへ敬意をこめて、彼の作品を服で表現したんです。
高橋さんが敬意を込めて服をデザインしたシュヴァンクマイエルとは、どんな人物で、どんな作品を作っているのか?
カンタンに、ご説明します
ヤンシュバンクマイエル氏とは?
ヤン・シュヴァンクマイエルは、1934年にチェコのプラハで生まれました。
プラハ芸術工芸高校在学中に、シュルレアリズムに興味を持ちはじめ、ダリの複製画を入手しました。
高校卒業後は、プラハの芸術アカデミー演劇学部人形劇学科にて演出法と舞台美術を学びます。
その後は劇場の演出家や美術デザイナーとして経験を積み、短編映像作品で映画監督としてデビューします。
一時は映画制作からは離れ、触覚のオブジェと呼ばれる作品を発表していましたが、1987年に制作に3年の月日をかけた長編映画の「アリス」を発表。
1992年には、短編映像作品の「フード」を発表。
1996年には「悦楽共犯者」。
2000年には「オテサーネク」。
などの映画を発表しています。
触覚のオブジェと呼ばれる彫刻作品や、映像作品をベースに活動しているヤン・シュヴァンクマイエル。
そんな彼の作品で、オマージュを捧げる際に高橋さんがフォーカスしたのは、アリス、フード、ジャバウォッキーなどの映像作品でした。
ヤン・シュバンクマイエル氏の映像作品の特徴
これらのシュヴァンクマイエルの映像作品には、つぎのような特徴があります。
-
グロテスクなモチーフの多用
-
コマ撮りでの撮影
-
撮影に使われる小物への異常なこだわり
シュヴァンクマイエルの映像作品には、グロテスクなモチーフがよく登場します。
はく製、生肉、骨、などです。
これらは普通の人が気持ち悪いと感じるような、グロテスクなモチーフたちです。
けれどもシュヴァンクマイエルは、これらのモチーフを、ただ気持ち悪く見せてはいません。
「コマ撮り」を活用することにより、グロテスクなモチーフが、かわいくて親しみやすい動きになっています。
ここがシュヴァンクマイエルのセンスです。
上の動画はヤン・シュバンクマイエルの公式チャンネルより引用。 ※1:58〜グロテスクな描写があるので、気をつけてください。
動画を1:20くらいから再生すると、生肉が踊っている映像が見れます。
また先程も申し上げたように、彼の作品に登場する小物は、ひとつひとつに独特の美意識が感じられます。
この小物を見ているだけでも、映画が楽しめる、それくらいにかわいい小物たちです。
上の動画も、ヤン・シュバンクマイエルの公式チャンネルより引用。
彼の代表作である「アリス」です。
シュヴァンクマイエルの代表作である「アリス」は、 “気持ち悪いモチーフを可愛らしく見せるセンス” や“小物への異常なこだわり”が強く感じられる作品です。
ちなみに「アリス」は、Amazonプライムでも見ることができます。
まだ見ていない方は、ぜひ見てみてください。
そんなシュバンクマイエルの映像作品の特徴を、洋服で表現しようと決めた高橋さん。
高橋さんが「BUT BEAUTIFUL Ⅱ」のコンセプトにしたのは、
- 服が服を食べている服
- 物が朽ちていく様子
この2つでした。
服が服を食べている服
2つ目のキーワードは「服が服を食べている服」。
「服が服を食べている服」ってどういうこと?
これが初めて僕が「服が服を食べている服」を聞いたときの感想です。
ふつうに考えて理解できないですよね・・・。
ではいったい、高橋氏はどうやって「服が服を食べている服」というコンセプトを服で表現したのか?
高橋氏は3つのディテールを使って、「服が服を食べている服」を表現しています。
それは・・・
- 目玉のボタン
- 歯のレース
- だらりと垂れさがる小さな服
この3つのディテールです。
目玉のボタン、歯のレース、だらりと垂れさがる小さな服
- まずは目玉のボタンを胸に2つ付けます
- そしておなかの部分に歯のレースをぐるりとぬい付けます
- さいごに歯のレースで作った口の部分から、小さな服をだらりと垂れ下げます
これで「服が服を食べている服」を表現しました。
目玉のボタン
目玉のボタンを胸に2つ付け。
歯のレース
上の写真のような、歯のレースをおなかの部分にぐるりとぬい付けて口にします。
だらりと垂れ下がる小さな服
さいごに小さな服をだらりと垂れ下げて、「服が服を食べている服」を表現しています。
高橋氏のディテールへのフェティシズムが爆発
目玉や歯などのふつうは気持ち悪く見えるモチーフを、ボタンやレースなどの可愛い要素と掛け合わせて、バランスをとっています。
高橋氏さんはよく雑誌のインタビューで、「レディースの洋服のディテールフェチです」と語っています。
女の人の洋服を見に行くと、楽しいんですよ。 (中略) 洋服のディテールマニアなんですよ(笑)。ギャザーとかフリルとかレースとか、ボタンのふちの感じとか(笑)。フェチなんですよ『EYES CREAM』2007年 5月号 47P より引用
「BUT BEAUTIFUL Ⅱ」では、そんな高橋さんのディテールに対するフェティシズムが爆発しています!
物が朽ちていく様子
3つ目のキーワードは「物が朽ちていく様子」です。
しかし「物が朽ちていく様子」というキーワードも、「BUT BEAUTIFUL Ⅱ」を理解するうえで外せません。
高橋さんは「物が朽ちていく様子」を、つぎの2つのディテールを使って表現しています。
- ひび割れ
- サビ
それぞれについてご説明します。
ひび割れ
サビ
「物が朽ちていく様子」で、時の流れを感じさせる服に
ひび割れやサビなどの加工は、高橋氏が「もし服が固い質感で、できていたらどうなっていただろう?」と考えてデザインしました。
こうすることで新品の服なのに、何十年も使い古された質感の服になっています。
服を布以外のマテリアルに置き換えて、時の流れを感じさせている。
僕はそんな服を、「BUT BEAUTIFUL Ⅱ」の服以外に見たことがありません
子供のような視点のファッションデザイン
高橋氏が考えた「BUT BEAUTIFUL Ⅱ」のコンセプト。
- 服が服を食べている服
- 物が朽ちていく様子
この2つのコンセプトは、ファッション通の業界人もビックリするし、子供が見たら「キャッ!キャッ!」とはしゃぐでしょう。
つまり老若男女の誰もが楽しめる服なんです
まず「服が服を食べている服」や「物が朽ちていく様子」というアイディアを思いつくのがすごくないですか?
このようなアイデアを30才を過ぎたデザイナーが思いつけるのが、「どれだけ頭がやわらかいんだよ!」とツッコミたくなります。
まるで「BUT BEAUTIFUL Ⅱ」の服は、「子供のような視点のファッションデザイン」なんです。
『ようやく子どものような絵が描けるようになった。ここまで来るのにずいぶん時間がかかったものだ。』by パブロ・ピカソ
引用元:I.Q.|「ヒト」を最適化しよう
しかも高橋さんのすごいところは、そんな子供ようなアイデアの服たちを、ストリートでも着られるリアルクローズに落とし込んでいるところ。
「BUT BEAUTIFUL Ⅱ」の服は、ただのアイデア先行の自己満服になっていません。
こんな服が作れるのは、世界で高橋さんだけだと思います。
「BUT BEAUTIFULⅡ」の服が掲載された雑誌
「BUT BEAUTIFUL Ⅱ」の服が掲載された雑誌をご紹介します。
- 『装苑』 2005年5月号 18~25p
- 『HUgE』 2005年5月号 62~67p
- 『FASHION NEWS』 2005年 1月号 10~30p
- 『MEN’S NON-NO』 2005年 2月号 154~161p
- 『夜想』 #モンスター&フリークス 122~128p
この中から僕がオススメするのは『FASHION NEWS』2005年1月号です。
『FASHION NEWS』2005年1月号の巻頭特集は必読 。
『FASHION NEWS』の2005年1月号では、UNDERCOVERの巻頭特集を組んでいます。
その内容はロングインタビューや過去のコレクション写真など。
また高橋さんはこのシーズンから、手描きのイラストを描きこんだ手作りのデザインノートを作っています。
1998AW「エクスチェンジ」から2004AW「BUT BEAUTIFUL…」までは、デザイン画をPC上で描いていました。
もっと前はボディに直接布を当てて、立体上でデザインを考えていました。
しかし「BUT BEAUTIFUL Ⅱ」からは、デザイン画を手描きに変えています。
デザイン画を手描きするようになったのは、2005年SSから。いわく「かなり細かく描くので、コンピューターでは限界があるし、紙とペンのほうが自由に発想が広がりますから」。
「デザインノートから振り返る〈アンダーカバー〉25年史。」casabrutus.comより引用
ちなみに『FASHION NEWS』には、そのデザインノートの写真も載っています。
UNDERCOVERファンなら、その写真を見るだけでニヤニヤしてしまいます。
さいごに
今回の記事では、
- ヤンシュバンクマイエル氏へのオマージュ
- 服が服を食べている服
- 物が朽ちている様子
- 子供のような視点のファッションデザイン
という4つのキーワードをもとに、UNDERCOVERのコレクション「BUT BEAUTIFUL Ⅱ」について書きました。
BUT BEAUTIFULⅡは、UNDERCOVERの歴代コレクションの中で、僕が一番好きなシーズンです。
もしもタイムマシーンがあったら2005年2月に行って、 このシーズンの服を買い占めたい!
高橋氏は2シーズン続けて、他のアーティストの作品からアイディアを得て服をデザインしました。
『【図画工作なフェルト服】UNDERCOVERの「Arts&Crafts」期を解説』という記事では、つづく「Arts&Crafts」期について、くわしく書いております。
お時間ございましたら、ぜひ読んでください
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