「子供のころに観た怖い映画を思い出す服があります」。
怖くてたまらないけど、気になって仕方がないから、手のスキマからのぞき込むように観た映画。
そんな映画を思い出させるのは、UNDERCOVERが2004年から2006年までの5シーズンに渡って発表された「BUT BEAUTIFUL」シリーズの服たちです。
UNDERCOVER 2004AW「BUT BEAUTIFUL…」
伝説的な連作コレクション、「BUT期」はこのシーズンから始まりました。
「BUT BEAUTIFUL…」は、UNDERCOVERのデザイナー高橋盾氏が、ぬいぐるみで遊ぶ長女を見ていて、「ぬいぐるみのような服を作りたい」と思ったことからスタートしました。
「BUT BEAUTIFUL…」の服を見ていると、可愛いもの象徴であるぬいぐるみが、不気味に怖く感じてきます。
またぬいぐるみのような服を作ることで、「ハンガーに吊るした時に面白い服」になっています。
今回はUNDERCOVERの2004AWコレクション「BUT BEAUTIFUL…」について、
- アン、パティ、ミシェル、3人の女性アーティストからの影響
- 高橋氏のディレクション能力
- 女性的な感覚で作ったコンセプチュアルな服
という3つのキーワードをもとに書きました。
アン、パティ、ミシェル、3人の女性アーティストからの影響
高橋氏は「BUT BEAUTIFUL…」で、3人の女性アーティストから影響を受けて服を作りました。
その3人の女性アーティストとは、
- フランス人のぬいぐるみ作家、アン・ヴァレリー・デュポン
- NYのパンクミュージシャンであり詩人、パティ・スミス
- ガラクタでアクセサリーを作る、ミシェル・ジャンク
です。
フランス人ぬいぐるみ作家、アン・ヴァレリー・・デュポン
1976年生まれ。ストラスブール大学を卒業した後、1999年よりテキスタイル彫刻家として始動。パリやニューヨークなどで展覧会を開催し、高く評価されている。フランス、ブサンソンを拠点に世界中で活躍中。
アン・ヴァレリー・デュポンは、ぬいぐるみを作るアーティストです。
彼女の作品の特徴はつぎのとおり。
・中綿を入れてモコモコとさせた生地
・1つ1つの形が違うボタン
・手縫いでチクチクと縫い上げたステッチ
・カオス感のある柄使い
NYのパンクミュージシャンであり詩人、パティ・スミス
1946年生まれ。愛称は「パンクの女王」。詩人として詩集を3冊発表した後、『Horses』でメジャーデビュー。3枚のアルバムを発表するも、人気絶頂の中で引退。その後、1988年に『Dream of Life』で復活して、現在も精力的に活動中。
パンク女王パティ・スミスと高橋氏の親交は深く、UNDERCOVERのアトリエでパティが弾き語りをしたこともあります。
パティ・スミスについては、こちら↑の記事でくわしく書いております。
ガラクタでアクセサリーを作る、ミシェル・ジャンク
オーストラリア在住のセミクチュール・ファッション・ブランドのクリエイター。大学で宝石学とテキスタイルを学ぶ。
ミシェル・ジャンクは、アルミ缶のタブなどのふつうなら捨ててしまうような材料でアクセサリーを作ります。
「BUT BEAUTIFUL…」の服のイメージは、
×
アンの作るぬいぐるみの手作り感
+
ミシェルのガラクタ・アクセサリー
この3つを絶妙なさじ加減で混ぜ合わせているんです。
高橋氏のディレクション能力
コレクションには、チェックのベストやオーバーサイズのジャケット、深くかぶった帽子が多く登場します。
これらのアイテムは、70年代にパティが実際に身に付けていたアイテムです。
そんなパティの身に付けていたアイテムに、
・中綿を入れてモコモコとさせた生地
・1つ1つの形が違うボタン
・手縫いでチクチクと縫い上げたステッチ
・カオス感のある柄使い
などの、アン・ヴァレリー・デュポンが作るぬいぐるみのディテールの特徴を加えています。
ちなみにショーでモデルが被っている鳥のマスクは、このショーの為にアンが作ったもの。
そんな、パティ×アンのぬいぐるみのような服に、ミシェル・ジャンクのゴチャゴチャとしたアクセサリーを加えることで、ルック一体一体のインパクトを高めています。
普通なら一つ一つの要素がぶつかり合って、まとまらないでしょう。
しかし高橋氏は、アン、パティ、ミシェル、年代も国籍もバラバラの3人の女性アーティストの作品を、UNDERCOVERという「高橋氏の脳内世界」で見事にまとめ上げています。
その編集力は「さすが」の一言。
しかも発表された服はタグを外しても、「ああ、UNDERCOVERの服だな」とわかるデザインに仕上がっています。
女性的な感覚で作ったコンセプチュアルな服
ジョニオ氏は「BUT BEAUTIFUL…」で、アン、パティ、ミシェルの3人の女性アーティストの作品が持つ、‘‘女性的な感覚” をUNDERCOVERの服に注入しました。
そうすることで、
・東コレ時代(ファスナーでバラバラになる服など)
・パリコレ初期(パッチワークでかさぶたを表現した服など)
上記の男性目線のコンセプチュアルな作風からは、1つレベルが上がったコレクションになっています。

「BUT BEAUTIFUL…」の服は、UNDERCOVERの過去と未来、両方の服を語る上で重要なコレクションです。
UNDERCOVERの歴代コレクションの中でも 「BUT BEAUTIFUL…」はジョニオ氏のお気に入りのシーズン
ジョニオ氏も「BUT BEAUTIFUL…」の服は気に入っていて、ベストルックにたびたび選んでいます。
「BUT BEAUTIFUL…」(04-05年秋冬)は、いつ見ても服そのものが面白いコレクションで、いちばん好きな作品のひとつ。
『“QUOTATION” 一冊、アンダーカバー』P15より引用
いつ見ても、服がやっぱりイイ!
『WWD なぜ今「アンダーカバー」なのか?』2007年6月25日号 P7より引用
「BUT BEAUTIFUL…」の服が掲載された雑誌
- 『SENSE』 2004年 6 月号
- 『装苑』 2004年 7月号 P19 ~24
- 『HUgE』 2004年10月号 P20~32
- 『FASHION NEWS』 2004年 7月号 P10~15
- 『MEN’S NON-NO』 2004年 8月号 P46~53
「BUT BEAUTIFUL…」の服が掲載された書籍の情報です。
今回の記事を読んで、もっと深くBUT期の服について知りたいと思っていただけたなら、探してみて下さい。
さいごに
今回の記事では、
- アン、パティ、ミシェル、3人の女性クリエイターからの影響
- 高橋氏のディレクション能力
- 女性的な感覚で作ったコンセプチュアルな服
という3つのキーワードをもとに、UNDERCOVERの2005AWコレクション「BUT BEAUTIFUL …」について書きました。
ジョニオ氏は「BUT BEAUTIFUL…」で、3人の女性クリエイターから影響を受けて服を作りました。
この次のシーズンでは、チェコの鬼才シュルレアリストのヤン・シュバンクマイエルへオマージュを捧げた服を作ります・・・。
お時間ございましたら読んでみてください。
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