マルタン。マルジェラってどんなデザイナーなんだろう?
こういう疑問を解決します。
「マルタン・マルジェラ」をご存知でしょうか?
彼こそは100年後のファッション業界でも、語られているであろうファッションデザイナーのひとりです。
彼を語るときには、様々なワードが出てきます。
- アノニム(匿名性)
- 脱構築
などなど。
名作アイテムと呼ばれている物も多くて、タビシューズ、エイズTシャツ、エルボーパッチ、etc.
今日はそんな「マルタン・マルジェラ」について、徹底解説していきます。
マルタン・マルジェラの経歴
マルタン・マルジェラは、1957年にべルギーのリンブルクで生まれました。
16歳の時に、名門ファッション学校のアントワープ王立美術アカデミーに入学します。
さいしょの2年間はデッサンを学んでいたそうです。
アントワープ卒業後は、ミラノでトレンド分析の仕事をしていました。
1984年からジャンポール・ゴルチエのデザインアシスタントとして4年間務めました。
マルジェラとゴルチエ。
あまり関係性のなさそうな2人のデザイナーですが、マルジェラはかなりのゴルチエファンなんです。
私はちょっとばかげた質問をしました。
「人生の中で何が好きなの?」と。彼は「デッサン、パスタ、パリ、そしてゴルチエ」と答えたものです。『ハイファッション』文化出版局 1998年10月号 P109より引用
その後は独立して「メゾンマルタンマルジェラ」を開設。
マルタン・マルジェラのアノニム(匿名性)、脱構築
アノニム(匿名性)
マルジェラ・マルジェラの作る服を語る上で外せないキーワードのひとつ。
それが「アノニム(匿名性)」でしょう。
アノニム [1] 【anonym】
仮名。変名。匿名者。匿名作家。また,作者不詳の作品。『weblio辞典』より引用
この「アノニム」というワードが、マルタン・マルジェラに付きまとうのには下記の理由があります。
- タグにブランド名を書かない
- 「FAX」でのインタビューの受け答え
- メディアへの顔出しをしない
- モデルの顔を布で隠す
タグにブランド名を書かない
マルジェラの代名詞といえば、ブランド名が書いていない「四つ糸のタグ」でしょう。
この「四つ糸のタグ」には、ある流れがあってそうなりました。
もともとマルジェラ自身はタグをつけないのが理想でした。
しかしそれだと商品の管理ができない。
なので付けてはいるけれど、後からすぐに取り外せるようにと、ブランド創設のしばらくはしつけ用の糸で縫い付けていたそうです。
ですが、しつけ糸だと着ていてしばらくすると、ちぎれてしまう。
服を買った人から修理の依頼が多かったので、ちゃんとした糸で縫うようになった。
という流れがあります。
この偶然から生まれた背中から見える「四つ糸のタグ」。
ブランドを消したくて作ったはずのタグが、ファッション界でもっとも目立つブランドアピールとなっています。
インタビューには「FAX」で受け答えをして、顔出しをしない
マルジェラは、基本的には雑誌などのメディアに顔を出しません。
インタビューもFAXを使って答えます。
またインタビュー時に使う主語も、“私は”ではなく、“私たち”という複数形を用います。
「ご質問に対する回答は、マルジェラの意見に基づく、我々チームとしての回答であり、マルタンマルジェラ個人ではなく、メゾン・マルタン・マルジェラとしてお答えしたものです。このため、一人称単数ではなく、一人称複数を用いています。」
『VISIONARIES』P35より引用 Susannah Frankel 著
ブルース・インターアクション 2005年 12月
でも正確には、初期の雑誌インタビューには、ふつうに顔出しをしていました。
モデルの顔を布で隠す
匿名性の考えは自分自身だけではなく、モデルの顔にも用います。
マルジェラのコレクションではモデルの顔を布で隠すことが多々あります。
「アノニム(匿名性)」の理由は?
FAXでの受け答えも、メディアへの顔出しをしないのも、モデルの顔を布で隠すのも、
その理由としては、「自分たちの作る服だけに注目してほしいから」です。
脱構築
「匿名性」と同じくらいに、彼の作品では「脱構築」というワードがよく使われます。
だつ こうちく [3]【脱構築】〔フランス déconstruction〕
フランスの哲学者デリダの用語。形而上学の仕組みを解体し、その可能性の要素を抽出して再構築を試みる哲学的思考の方法。デコンストラクション。
『weblio辞典』より引用
「脱構築」というのはもともと哲学の用語です。
この「脱構築」というワードが、マルタン・マルジェラに付きまとうのには下記の理由があります。
- みんなのファッションのイメージ自体をバラバラにしている
- 古着のリメイク
マルジェラはみんなが持つファッションというイメージ自体を、バラバラに脱構築しているんです。
「トルソードレス」がよい例かと。
トルソードレス
1997SSに発表した「トルソードレス」。
本来、服を作るために使うトルソーをそのまま服にしてしまう。そしてパリコレで発表する。
こうすることにより、この「トルソードレス」を見る人は「いや待てよ。俺らが思う服って、なにんだろう?」と、考えさせられるんです。
古着のリメイク
アーティザナルラインの古着をリメイクして作る服たち。
手袋をダウンジャケットにしたり、靴下をセーターにしたり。
その古着の本来の使い方を無意味化し、バラバラにして新しいものを作り直しています。
「マルタン・マルジェラ」の名作アイテム
マルジェラの名作アイテム下記の通り。
- タビシューズ
- エイズTシャツ
- エルボーパッチ
- トルソードレス
タビシューズ
初期のコレクションから発売している「タビシューズ」。
今では毎シーズン店頭に並んでいます。
エイズTシャツ
マルタン・マルジェラの定番アイテムといえば「エイズTシャツ」。
書いてあるメッセージは英語だと。
THERE IS MORE ACTION TO BE DONE TO FIGHT AIDS THAN TO WEAR THIS T SHIRT BUT IT’S A GOOD START
これを日本語に訳すと。
エイズと闘うためにすべき活動はもっとあるがこのTシャツを着ることは良い始まりだ
エルボーパッチシリーズ
エルボーパッチも有名なアイテムですね。
スウェットやセーターのひじの部分の補強の布をデザインにしたアイテムです。
マルタン・マルジェラの各ラインについて
マルジェラには13のラインがあります。
- ⓪ = 手仕事により、フォルムを作り直した女性と男性のための服
- 1 = 女性のためのショーコレクション
- ① = 女性のためのコレクション
- ③ = 香水のコレクション
- ④ = 女性のためのワードローブ
- ⑧ = アイウェアのコレクション
- ⑩ = 男性のためのコレクション
- ⑪ = 女性と男性のためのアクセサリーのコレクション
- ⑫ = ファインジュエリーのコレクション
- ⑬ = オブジェ、または出版物
- ⑭ = 男性のためのワードローブ
- ㉒ = 女性と男性のための靴のコレクション
- MM6 = ♀のための服
これはファンでも暗記している人は少ないのではないでしょうか。
「エルメス」のデザイン
マルジェラは1998AW~2004SSまでのあいだ、フランスの老舗ブランド、「エルメス」でデザイナーを担当していました。
また2018年にはマルジェラが手掛けていたエルメスの展覧会がパリで開催されました。
マルジェラと関係の深いデザイナーたち
アントワープ6
マルジェラと関係の深いデザイナーといえば、真っ先に挙げられるのが「アントワープ6」ではないでしょうか。
下記がアントワープ6のメンバーたち。
- ドリス・ヴァン・ノッテン
- アン・ドゥムル・メステール
- ウォルター・ヴァン・ベイレンドンク
- マリナ・イー
- ダーク・ヴァン・セーヌ
- ダーク・ビッケン・バーグ
※マルジェラ自身がアントワープ6に含まれることがありますが、彼はアントワープ6のメンバーではありません。
こうやって書いてみて気づいたのですが、アントワープ6で現在もデザイナーとして活動しているのは、ドリスくらいですね・・・。
アンは引退してしまったし。ウォルターも最近は名前を聞きませんし。
ああ寂しい・・・。
ジョン・ガリアーノ
ジョンガリアーノは、「マルタン・マルジェラ」の現デザイナーです。
実際にブランドデザイナーに就任する際に、マルタンマルジェラと会って話したそうです。
彼の就任以後、ブランド名は変わりました。
「メゾン・マルタン・マルジェラ」から「メゾン・マルジェラ」へと。
なのでジョンガリアーノは、正確には「メゾン・マルジェラ」のデザイナーです。
川久保 玲
「コム・デ・ギャルソン」のデザイナーの川久保玲女史もマルジェラとは関係の深いデザイナーなんです。
「コム・デ・ギャルソン」と「マルタン・マルジェラ」は1998SSシーズンに合同でプレゼンテーションを行っています。
デムナ・ヴァザリア
今もっともアツいデザイナー、デムナ・ヴァザリア。
「バレンシアガ」と「ヴェトモン」のデザイナーです。
彼はもともとマルジェラのメンバーとして、デザインしていたんです。
マルジェラの正統派後継者デザイナーです。
高橋 盾
アンダーカバーのデザイナー高橋盾氏も、かなり初期からのマルジェラファンなんです。
マルジェラもデビューした時にひとみさんに「マルジェラ」って人が出てきたと言ってました(笑)。
渋谷に店があるらしいというので見に行ったら、エレベーターのところにTシャツを着せたボディがあるんだけど、切りっぱなしでロックの糸もどこも始末していない。
四角い無地のぴょんぴょんが付いてて「何だこれ?」だし、バナナみたいなパットの入っている初期の肩の狭いジャケットも、そこら中にダーツが入っているのに衝撃を受けて、「これでいいんだ」と。そういうある意味「ダメ」な見本に衝撃を受けました。影響は大きかったですね。
『SUMIRE』P22より引用
また「A MAGAZINE」ではマルジェラとの共作も発表しておりまして。
2006SSのUNDERCOVERのTシャツをマルジェラがリメイクしていました。
森永邦彦
「アンリアレイジ」のデザイナーである森永氏は上記に挙げたデザイナーほど、マルジェラと直接的な関係はありません。
正直入れようか迷いました。
しかし彼の作品を見ると、マルジェラからの影響を受けているのが、かなりわかりますので書きました。
たとえば下記のコレクションたち。
- 「○ △ □」2009SS
- 「凹凸」2009AW
- 「wideshortslimlong」2010AW
- 「DETAIL」2019AW
アンリアレイジのこれらのコレクションからは、かなりマルジェラの匂いが感じられます。
「○ △ □」と「凹凸」は、マルジェラの1998SSの「平面的な服」コレクションや2002SS「円形の服」コレクションからの影響でしょう。
また洋服の細部を巨大化させた「DETAIL」は、マルジェラが2000SSと2000AWに発表した「倍率200%のビッグサイズ」コレクションからの影響かと。
参考文献・サイト
今回の記事を書くにあたって参考にした文献とサイトをご紹介します。
- 『Maison Martin Margiela』 Maison Martin Margiela著
- 『VISIONARIES』 Susannah Frankel著 ブルース・インターアクション
- 『20世紀ファッションの文化史』成実弘至著 河出書房新社
- 『装苑』2008年 10月号 文化出版局
- 『ミステリアスなデザイナー、Martin Margiela(マルタン・マルジェラ)。その代表的なモデルから、彼の思想を探る。』knowbrand magazine
- 『マルタン・マルジェラ』wikipedia
- 『裏話もちょっと交えて『マルジェラ、エルメス時代』展。』madamefigaro.jp
- 『【生誕22周年】Martin Margiela(マルタンマルジェラ)のエイズTシャツ年代判別法』DOLLAR
- 『アンリアレイジ』SHIFT
「もっとマルジェラを知りたい!」という方にオススメの本は、上にリンクを貼り付けた「Maison Martin Margiela」ですね。
この1冊で「マルジェラのキャリアのすべてがわかる」と言っても過言ではないでしょう。ただすべて英語表記なので、読み物としては楽しめません。
でもこの価格でこの内容は、めちゃお得っス!
まとめ、僕の思うマルジェラの魅力
2010年に引退したマルタン・マルジェラ氏。今回の記事では彼の作風や、影響を与えたデザイナーなどについて書きました。
僕の思うマルジェラの魅力は・・・
圧倒的な発想力
特にアーティザナルのラインでは、彼の圧倒的な発想力を感じられます。
これに尽きます。
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