一目見て忘れられなくなった服はありますか?
心がギュッとわしづかみにされて、見ているとニヤニヤが止まらなくなる服。
憧れのミュージシャンのライブに行って、初めて生で曲を聴いた時のように。
中学校で3年間片思いだった相手に、卒業式で告白する時のように。
心拍数が上がって「ああ、今脳内でガンガンにアドレナリンが出ているな」、と自覚できるような瞬間。
見ているとそんな気持ちになる服が僕にはあります。
その服とはUNDERCOVERが、もう10年以上も前に発表した服の数々。
2004年秋冬から2006年秋冬の5シーズンに渡って、発表された「BUT BEAUTIFUL」という連作コレクションの服たちです。
ちなみに「BUT BEAUTIFUL」というタイトルは、ジャズ・シンガーのニーナ・シモンの曲名からの引用です。
Nina Simone -〈But Beautiful〉
UNDERCOVERのファンの間では、

通称「BUT期」と呼ばれています。
はじめに
BUT期の服は、知識欲が刺激される服
「BUT期」の服は、服としての魅力はもちろんのこと。その背景にある高橋氏がインスピレーションを受けたカルチャーまでも、知り尽くしたくなります。
僕は今まで生きてきて「BUT期」の服ほど、‘‘知識欲が刺激される服” に出会ったことはありません。
僕がBUT期を通じて出会ったカルチャーは数多くあります。
パティ・スミス、ヤン・シュバンクマイエル、CAN、時計仕掛けのオレンジ etc…
BUT期の服は、その背景にあるカルチャーを知ることで、ちがった見方ができるようになります。
かつて僕がBUT期に出会った時の衝撃を、追体験していただきたく書きました。
2004AW「BUT BEAUTIFUL…」
高橋氏は「But Beautiful…」で、ある3人の女性アーティストから影響を受けて「ぬいぐるみのような服」をデザインしました。
- フランス人のぬいぐるみ作家。
アン・ヴァレリー・デュポン - パンク女王。
パティ・スミス - ガラクタでアクセサリーを作る。
ミシェル・ジャンク
アン、パティ、ミシェル、3人の女性クリエイターからの影響
「【アン、パティ、ミシェルからの影響】UNDERCOVERの2004AWコレクション「BUT BEAUTIFUL…」」という記事では、
- アン、パティ、ミシェル、3人の女性クリエイターからの影響
- 高橋氏のディレクション能力
- 女性的な感覚で作ったコンセプチュアルな服
この3つのキーワードから記事を書いております。
2005SS「BUT BEAUTIFUL Ⅱ」
高橋氏は前シーズンの「BUT BEAUTIFUL…」では、アン、パティ、ミシェルの3人の女性アーティストから影響を受けて洋服をデザインしました。
つづく2005AWコレクション「BUT BEAUTIFUL Ⅱ」では、ある一人の男性アーティストから影響を受けて洋服をデザインします。
その一人の男性アーティストとは誰なのか・・・?
答えは、

チェコの鬼才シュルレアリスト、ヤン・シュバンクマイエルです。
ヤン・シュバンクマイエルへのオマージュ
「BUT BEAUTIFUL Ⅱ」で高橋氏は、ヤン・シュバンクマイエル氏の映像作品を服で表現しています。
ヤン・シュバンクマイエル氏の映像作品によく登場するモチーフは、
- はく製
- 生肉
- 骨
などなど。
「BUT BEAUTIFUL Ⅱ」のコンセプト
「BUT BEAUTIFUL Ⅱ」の服では、そんな映像作品を表現するために2つのコンセプトを設定しました。
- 服が服を食べている服
- 物が朽ちていく様子
「服が服を食べている服」や「物が朽ちていく様子」と聞くと、そんなのどうやって服で表現するの?という感じです。
しかし百聞は一見にしかず、です。
実物を見ると、納得します。
「【ヤン・シュバンクマイエルへのオマージュ】 UNDERCOVERの「BUT BEAUTIFUL Ⅱ」を解説」という記事では、
- チェコの鬼才、ヤン・シュバンクマイエルへのオマージュ
- 服が服を食べている服
- 物が朽ちていく様子
- 子供のような視点のファッションデザイン
この4つのキーワードをもとに、さらにくわしく「BUT BEAUTIFUL Ⅱ」について書きました。
2005AW「Arts&Crafts」
高橋氏は「BUT BEAUTIFUL…」と「BUT BEAUTIFUL Ⅱ」で、東コレ時代から持つUNDERCOVER特有の“ダーク・ファンタジーな世界観”をより深めた高橋氏。
過去2シーズンは他のアーティストからの影響でコレクションをデザインした反動からか、
このシーズンで高橋氏は久しぶりに自分の内側から湧き出るアイディアで服をデザインします。

テーマは「Arts&Crafts」。邦題は「図画工作」です。
図画工作なフェルト服
Arts&Crafts期では、あらゆる素材・柄をフェルトで作っています。
- アニマル柄
- ストライプ柄
- ボア
などなど。
さらにショーでは、加茂克哉氏によるヘアメイクで、「髪の毛」と「眉毛」までフェルトで作られていました。
ターゲットは大人の女性
Arts&Crafts期で高橋氏は、
- 大人の女性が普段着とミックスして着られる服
- エレガントだけどUNDERCOVERらしさがある服
大人の女性をターゲットにしたエレガントなコレクションということで、「デザインはあくまでシンプルに」と高橋氏はこだわりました。
「【図画工作なフェルト服】UNDERCOVERの「Arts&Crafts」期を解説」という記事では、
- 図画工作な「フェルトを切り貼りした服」
- ターゲットは大人の女性
- カルト的人気アイテムの85デニム、68デニム
この3つのキーワードをもとに記事を書きました。
2006SS「T」
パリコレ史上、もっともマニアックなコレクション
図画工作な服を作った2005AW「Arts&Crafts」。
その次のシーズン2006SSのテーマは「T」です。
まさかの英単語一文字。

「T」はTシャツの “T” からつけました。
高橋氏が考えた5つのバンド名
T期の服をデザインするにあたり、高橋氏は架空の5つのバンドを考えました。
- THEE CROUH
- CHUUUT
- KLAUS
- THE SSSSS
- THEO BURP
そのバンド名はこんな感じです。
立体裁断を用いたドレーピング
UNDERCOVERの初期のコレクション (97SSの『DRAPE』まで) では、立体裁断で洋服の型出しを行っていました。
「T」では、そんな初期のコレクションの立体裁断での型出し経験が活かされています。
「【パリコレ史上、もっともマニアックなコレクション】UNDERCOVERの2006SSの「T」期を解説」という記事では、
- 高橋氏が考えた5つのバンド名
- ジャーマン・プログレッシブロックからのインスパイア
- 立体裁断を用いたドレーピング
この3つのキーワードをもとにT期について詳しく書きました。
2006AW「GURUGURU」
BUT期さいごのシーズンのテーマは、「GURUGURU」です。
テーマになった「GURUGURU」とはどういう意味なのか?
答えは単純で、“衣服をグルグルと巻き付ける”という意味からつけられました。
「GURUGURU」のテーマ通り、服の1部が異様に長く作ってあり、ぐるぐると巻き付けられるようになっています。
グルグルにリメイクされたド西洋なアイテムたち
そんな東洋の「巻き付ける」という衣服の構造と相反してアイテムには、ド西洋のアイテムをチョイスしています。
- ナポレオンジャケット
- モッズコート
- タキシードジャケット
などなど。
こんなふうに・・・
東洋の“巻き付ける”という構造
×
ド西洋なアイテム
と、1着の洋服に相反する2つの要素を組み合わせています。
「【グルグルなド西洋のアイテム】UNDERCOVER-2006AW「BUT BEAUTIFUL Ⅴ(GURUGURU)」」という記事では、
- 東洋のエッセンス、ド西洋のアイテム
- モデルの顔を覆ったマスク
- 裏テーマの「人の感情やDNAを一切感じさせない」
この3つのキーワードをもとに記事を書きました。
「BUT期」とその後
BUT期を経たジョニオ氏はその後、
- 2007SSの「purple」では、「セクシーな夜の服」に挑戦。
- 2007AWコレクションでは、「ニットとハイテク素材」にフォーカス。
- 2008SSの「summer madness」では、「リゾートウェア」に特化した服を発表。
これらのコレクションは、「BUT期」までのダークでゴシックなファンタジーは影を潜め、大人の女性が日常でサラリと着れる服になっていきます。
>>> UNDERCOVERの2007AW 「無題(ニットとハイテク)」について語る
>>> 【UNDERCOVERの毒×リゾート】2008SS 「Summer Mudness」
これも「BUT期」でアングラ感の強いコレクションを追求しきったから、振り切れたのではないでしょうか。
10年以上前に、発表された連作コレクション「BUT期」。
今尚、ファンの間では伝説のコレクションとなっています。そして、ネットオークションやメルカリでは、当時のアイテムを探し求めている人が多いんです。僕もその一人です。
まとめ
もし今回の記事を読んで、BUT期の世界観をより深く追求したいと思ったら、
パティの音楽やジャーマン・プログレを聴いたり、ヤン・シュバンクマイエルの作品を調べたり、キューブリックの映画を観てみて下さい。

そうすることで、きっと「BUT期」のコレクションに、あなたの中で別の解釈が生まれます。
参考文献・資料
- 『WWD』 vol.1333 P11 2005年 10月31日発行
- 『WWD』 2007年 6月25日号「なぜ、今『アンダーカバー』なのか?」
- 『QUOTATION 一冊、アンダーカバー』
- 『FASHION NEWS』 2005年 1月号 「アンダーカバーと高橋盾」
- 『UNDERCOVER JUN TAKAHASHI』 RIZZOLI社
- 「レコード・コレクターズ-ジャーマン・ロックの快楽的宇宙サウンド」June,2000/Vol.19,No.6
- 『ANREALAGEの”LOW”と”A NEW HOPE”を業界関係者はどう捉えたか vol.2』
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