1980年代にボロルックを発表して、ヨウジヤマモトと共にファッション界に「黒の衝撃」を与えたコムデギャルソン。
今でもファッション界の最前線で活躍している日本のレジェンドブランドです。
そんなコムデギャルソンが作り出した流れを引き継ぎつつも、「自分らしさ」を加え発展させたデザイナーがいます。
僕はそのデザイナーたちのことを「ギャルソンチルドレン」と読んでいます。
それではギャルソンチルドレンなデザイナーとは一体誰なのか?
「ギャルソンチルドレン」なデザイナー
僕が考えるギャルソンチルドレンなデザイナーは3人おりまして。
- 渡辺淳弥
- マルタン・マルジェラ
- 高橋盾
ちなみに「ギャルソンチルドレン」という名称は、村上春樹に影響を受けた作家たち「春樹チルドレン」から来ています。
春樹チルドレンとは、村上春樹氏の小説の持っているエッセンスを受け継ぎつつも、自分らしさを加えている作家のことです。
僕が考える村上春樹氏のエッセンスは2つあります。
- 主人公の人間像
- 文体
この2つのエッセンスを持つ村上春樹氏の純文学に、「エンタメ的な要素」を加えて読みやすくしている作家たちが春樹チルドレンです。
春樹チルドレンと同じようにギャルソンチルドレンも、自身が強く影響を受けたコムデギャルソンらしさに、「自分の色」を加えています。
なので僕は彼らのことを「ギャルソンチルドレン」と呼んでいます。
「ギャルソンチルドレン」以外にも、ギャルソンから強く影響を受けたデザイナーはたくさんいます。
しかし今回はコムデギャルソンがファッション界に作り出した流れを正統的に引き継ぎつつも、自分のテイストを加えているデザイナーとして上記の3人を挙げました。
そもそもコムデギャルソンらしさとは?
「そもそもコムデギャルソンらしさとは何なのか?」
この問いに対して僕なりの答えを書いた上で、話を進めていきます。
僕が思う、コムデギャルソンらしさは2つあります。
- 先シーズンの自分をも否定するアバンギャルド(前衛性)さ
- 男ウケなんて完全無視、女性らしさの否定
先シーズンの自分をも否定するアバンギャルド(前衛性)さ
次から次へと新しいイメージを作り出します。
特に1990年代のコムデギャルソンのスピード感はすごいです。
先シーズンは黒のみのコレクションを発表したかと思うと、次のシーズンは色の洪水って感じのコレクションを発表していました。
男ウケなんて完全無視、女性らしさの否定
ファッション哲学者、鷲田清一氏の書いた本にはこう記してあります。
だぶだぶの黒の服ばかり着ている女の子が近くにいたので、「どうしてギャルソンばかり着るの?」と訊くと、彼女は、「これ着てたら男の子が言いよってこなくていいの」とさらりと言ってのけたそうだ。
鷲田清一著 『ちぐはぐな身体』ちくま文庫 P116より
僕はこのエピソードがギャルソンらしさを表していると思います。
ギャルソンの服はある種の意思表示になるんです。
私は「男目線」なんてどうでもいいですって感じの。
上記に挙げたギャルソンらしさに対して、3人のギャルソンチルドレンは、どう発展させて、どこが違うのか、その点について書いていきます。
渡辺淳弥
まず一人目、「ジュンヤ・ワタナベ」のデザイナーである渡辺淳弥氏について書いていきます。
彼はコムデギャルソンでパタンナーとして経験を積んだ後、川久保玲女史から「ブランドをやってみないか」と声をかけられて、ジュンヤワタナベをはじめました。
文字とおりのギャルソンチルドレン。
彼がコムデギャルソンらしさに対して、どうやって「自分らしさ」を加えたのか?
僕の中では2つの要素が出てきました。
- 西洋のドレスに見られる正統的な女性らしいフォルム
- メンズ古着の嗜好の注入
西洋のドレスに見られる正統的な女性らしいフォルム
渡辺氏の生み出す服では、マーメイドラインのスカートやフィットアンドフレアスカートなどの女性らしいシルエットの多用されているんです。
女性らしいシルエットを多用しているのは、1940~50年代のクチュールからの影響でしょう。
こういった女性らしいシルエットは、川久保女史は絶対に使わないであろうフォルムです。
しかし渡辺氏はこのクチュール感あふれる女性らしいシルエットに、ある要素を追加することによって、ギャルソンらしさを出しているんです。

それが「メンズ古着の嗜好」の注入です
メンズ古着の嗜好の注入
デニム、ミリタリーメンズ古着の要素の多用しています。
2006秋冬の彼のコレクションは、彼の美意識の最高地点ともいうべきコレクションです。
このコレクションではいわゆるミリタリーアイテムをバラバラに解体した後、再構築しています。それも最高のパターンテクニックを駆使して。
この他にも素材にはクタクタになったデニムや、薬剤をかけて溶かしたベロアなどのいわゆるボロ布を使っています。
いわゆる味のある古着的な要素。
それらの素材も2006秋冬コレクションと同様に最高のパターンテクニックを使って作られています。
こうすることで従来のラグジュアリーブランドの高級感を否定しているんです。
コムデギャルソンはボロボロの布を使って、アシンメトリーな服を作っています。
これはある種、異端×異端ということです。
しかしジュンヤ・ワタナベではボロボロの布を、従来のクチュールブランドのような女性らしいシルエットで服を仕立てています。
これは異端×常識ということ。
こうすることでブランド的な住み分け、ブランディングがしっかりとできています。
マルタン・マルジェラ
ギャルソンのアバンギャルドらしさに対するマルジェラ氏の答えは「ブランドの在り方を否定」です。
コムデギャルソンが前シーズンの自分のデザインをも否定して、どんどんと新しいコレクションを生み出すのに対して、マルジェラは自身のコレクションを再発表したりもします。
これは半年に一度は、新作を発表するべしというモードファッションのルール自体をも否定しているんです。
高橋盾
高橋氏はギャルソンらしさに対して「ストリートの感覚」を加えました。
また彼の創る服は布と副資材だけで勝負しているんです。
この日常から離れすぎない距離で、今まで見たことがない服が作れるのが彼の強いところです。
ギャルソンチルドレンたちが生み出す服のひとつの共通点
ギャルソンチルドレンたちの作る服には、コムデギャルソンとはちがうひとつの共通点があるんです。
それは彼らの作る服の圧倒的な「日常性」です。
ギャルソンが作り出したアバンギャルドという流れは残しつつも、そこに自分の「日常性」を溶け込ませています。
こうすることで、コムデギャルソンの服よりもより着やすい服をデザインしています。
まとめ
90年代にはギャルソンチルドレンと同じように見た目がギャルソン的なブランドもいたが、生き残ることはできませんでした。
それは彼らが「新しい美意識」を生み出してはいなかったからです。
切りっぱなしのディテールやアシンメトリーなフォルムなど、デザイン的な手法だけを真似するだけでは、だめなんです。
僕は今回の記事で、コムデギャルソンとギャルソンチルドレンのどちらの方がすごいということがいいたいのではありません。
ギャルソンチルドレンに影響を与えたコムデギャルソンもすごいと思っていますし。
コムデギャルソンの生み出した前衛性に、絶妙なさじ加減で「日常性」を加えているギャルソンチルドレンたちも、素晴らしいと思います。
つまり両方すごいんです。
ギャルソンチルドレンなデザイナーたちが、コムデギャルソン自身にも影響を与えることもあります。
また近年ではギャルソンチルドレンに影響を受けたファッションデザイナーたちがどんどんと生まれています。
マルジェラ出身のデムナ・ヴァザリアがファッション界を席巻しています。
UNDERCOVERに影響を受けてファッションデザイナーを目指す若者は今でも多くいます。
「ジュンヤワタナベ」で修行の後、ブランドを立ち上げたデザイナーたちもいます。
相互に影響を与え合いながら、ファッション界は進んでいくんです。
だから、

ファッションっておもしろいんです。
参考文献
- 『ちぐはぐな身体』 鷲田清一著 ちくま文庫
- 『20世紀のファッションの文化史』 成実弘至著 河出書房新社
今回の記事を書く上で参考にしました文献を掲載します。
以上、さいごまで読んでいただきありがとうございました。
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